ケミカルエンジニアのTips&Note

化学メーカーで働く中堅エンジニアの技術ブログ。

【蒸留】原理編③ 蒸留塔内の温度

今回は蒸留塔を運転する上で最も重要な塔内の温度について説明します。蒸留塔の運転は塔内温度を目標値になるよう管理することが多いですが、なぜそうするのか理解しましょう。

 

 

蒸留塔内の温度は組成と圧力で決まる

 

 さっそく本題です。蒸留塔の内の温度は何によって決まるでしょうか。
これは前回までの内容で答えがでます。前回、蒸留塔の各段は沸騰している状態であることを説明しました。つまり塔内の温度=沸点ということになります。

では沸点は何によって決まるでしょうか?

一つは圧力です。
沸騰とは蒸気圧が外圧(大気圧101.3kPaの場合が標準沸点)と等しくなった場合に起こる現象ですので、圧力が高くなれば当然沸点も高くなります。
これは純物質、混合物に関わらず傾向は変わりません。
下記の記事で説明した蒸気圧曲線(沸点ー飽和蒸気圧の関係)を見ればわかるかと思います。
chemi-eng.hatenablog.com


もう一つは組成です。
こちらも気液平衡について説明した下記の記事を見ればわかるかと思います。
メタノール-水のT-xy線図の沸点曲線はメタノール濃度が上がれば沸点は低下していきます。つまり、組成によって沸点が決まっているということがわかります。
逆にとらえると、沸点がわかれば組成がわかることなります。

chemi-eng.hatenablog.com

蒸留塔内の上から下まで圧力は一定と考えます。
(厳密にいえば圧力損失がありますので一定ではありませんが、ここでは考えやすいようにこのように考えます)
組成は塔の上(トップ)から塔の下(ボトム)にいくに従い高沸分(沸点が高いもの)が多くなり、逆に低沸分(沸点が高いもの)は少なくなります。
圧力は一定ですので塔内の温度は組成のみで決まり、トップからボトムにいくに従い温度は高くなります。
下図は水/メタノールの蒸留塔を90°回転させた塔内の組成と温度のイメージです。あくまでイメージですが、理解しやすいのではないでしょうか。

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蒸留塔内温度のイメージ

 

蒸留塔内の温度管理 ≒ 組成管理

ここまでの説明から最初の問い「なぜ蒸留塔は塔内温度を目標値となるように制御することが多いか?」の答えがわかるでしょう。

答えは蒸留塔から出てくる製品を目標組成とするためです。
例えば、留出液(トップ液)が重要(製品など)であればトップ付近の温度が目標値となるように管理します。逆に缶出液(ボトム液)が重要であればボトム付近の温度が目標値となるように管理します。

オンラインのガスクロなどで常時組成分析をできるような設備があればよいですが、そういった分析機器は高価なため通常は設置されていないことが多いです。
その場合は、このように沸点が組成によって決まることを利用し、塔内温度で組成を管理します。

 

終わりに

今回蒸留技術の基本の中で最も重要なことを説明しました。これまでの記事で説明したことを総動員した内容になっていますので、良い復習になったのではないでしょうか。