ケミカルエンジニアのTips&Note

化学メーカーで働く中堅エンジニアの技術ブログ。

【蒸留】原理編⑥ 還流比の影響、最小還流比、最小理論段数

今回は前回予告していた通り、階段作図をもう少し深掘りし、蒸留検討で重要な還流比がどのような影響があるかを中心に解説します。

 

 
以下の階段作図方法の記事をまだ読んでいない方は先にそちらを読んでもらえますと、より本記事を理解しやすいと思います。

chemi-eng.hatenablog.com

 

還流比の分離への影響

還流比の定義は皆さん覚えているでしょうか。

「還流比 = 還流量/留出量」ですね。
前回の記事ではr = L/Dと書いておりましたが同じ意味です。
濃縮部の操作線は還流比rを用いて次のように表せました。

このとき、還流比を増減させると操作線はどのように動くか見ていきましょう。

還流比を大きくすると、操作線の傾きは大きくなります。
つまり、操作線は(xD,xD)は必ず通るので、この点を軸に反時計周りに動きます。
一方で、還流比を小さくすると、傾きは小さくなります。
大きくする場合とは、逆に(xD,xD)を軸に時計回りに動きます。

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還流比の操作線への影響

この時、還流比は大きい場合と小さい場合どちらが分離しやすい、つまり必要な理論段数は少なくなるでしょうか。
次の図を見れば、一目瞭然です。還流比が大きい方が、少ない理論段数で分離が可能です。これは還流比が大きい場合、操作線とxy線の間隔が大きくなり、より大きな一段の階段を描けるためです。
大きな階段を描ける≒一段でより濃縮できる、ことを意味し、分離しやすくなるということです。

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還流比の分離への影響

最小還流比とは

さらに還流比を小さくしていくとどのようになるでしょうか。ある還流比でxy線とq線との交点と操作線が交わることになります。

この場合、階段作図をすると階段の数が∞となり、これ以上濃縮できなくなることがわかります。

この時の還流比以上でなければ蒸留できないことから、この還流比を最小還流比と言います。
最小還流比は蒸留プロセスの重要な設計指標の一つですのでよく覚えておいてください。

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最小還流比


最小理論段数


次に、さきほどとは逆に、還流比を大きくしていくとどうなるか考えましょう。
とりうる最大還流比は何でしょうか。
「還流比 = 還流量/留出量」でしたので、「留出量 = 0」のとき、「還流比=∞」となり、このとき最大となります。
つまり、炊き上げた蒸気の凝縮液すべてを蒸留塔に戻している状態ですので、これを全還流と言います。
全還流時の操作線は傾き=1、つまり対角線に重なります。
このとき、あらゆる条件の中で最も操作線とxy線の間隔が大きくなり、分離に必要な理論段数は最も少なくなります。これを最小理論段数と言います。
最小還流比の方が使うことが多いですが、こちらも重要な設計指標の一つですので、覚えておきましょう。

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最小理論段数

終わりに

今回、前回と2回にわたって、階段作図について解説しました。
プロセスシミュレータでの計算は階段作図に厳密性が増したようなイメージで、根本的にやっていることは階段作図と変わりません。
私自身、シミュレータでの結果に納得できない場合などは、階段作図に立ち返ることで、その計算結果の理由がわかったり、より理解が深まることがよくあります。
非常に有用なツールですので、ぜひマスターしてください。
そのためには自分で図を書いてみることです。階段作図はどの化学工学の教科書にも載っていますので、例題を一つ解いてみるのが良いと思います。