ケミカルエンジニアのTips&Note

化学メーカーで働く中堅エンジニアの技術ブログ。

【蒸留】原理編⑦ 理論段と塔効率(段効率)

こんにちは。

大したことではないですが、報告です。
結構ブログが楽しいので、思い切ってPro会員になり、独自ドメイン化しました。

あと、このブログの収益化も考えています(まだそんなレベルではないですので将来的な話ですが)。
収益化は最初の目的とは違いますが、やっぱりたくさんの人に見てもらえるというのはうれしいし、お金が絡むとモチベーションが上がるのでやってみようかと。
ただし、PVを増やすためだけや、アフィリエイトで収益を出すためだけの記事は書きません。(というか書けない。。)
収益化はあくまで副産物的な位置づけで、記事はこれまで通り化学プラントに関するものを書いていきます。

とはいえ、たくさんの人に見てもらいたいので、まずは月間10,000PVを目標にがんばって記事をたくさんアップしていきます。(今は月間1,000PV以下なので、まだまだですが。。)

前置きが長くなりましたが、では今回の本題である理論段と塔効率について解説していきます。

 

 

 

蒸留塔のトレイ1段 ≠ フラスコ1個

以前の記事で蒸留塔のトレイ(棚段)1段が実験室で蒸留操作をするときのフラスコ1個と同じ役割であると説明しました。
イメージとしては合っていますが、厳密には違います。どこが異なるでしょうか?

www.chemi-eng.com


トレイ1段≠フラスコ1個なのです。そう、数の問題です。
一般的には棚段1段はフラスコ0.5~0.7個分くらいに相当すると言われており、同じ分離を達成しようとすると、トレイの方がフラスコより数が必要となります。

では、なぜトレイ1段=フラスコ1個とならないのか?

これはトレイ1段では完全な気液平衡状態にならないからです。
気液平衡状態にならない理由は大きく二つです。


 ※ 上の説明ではわかりやすくするため、フラスコでは気液平衡状態であると仮定しています。

 

気液平衡状態にならない理由① 気液接触時間が短い

一つ目の理由は、トレイ上での気液接触時間が短いためです。
一般的なトレイでの1段での気液接触時間は0.1秒以下です。
気液間での物質移動は平衡まで達していないとはずです。

 

気液平衡状態にならない理由② 液の流れが理想的でない

二つ目の理由は液の流れが理想的でないためです。
上のリンクの過去の記事で紹介したように、蒸留塔内のでの気液の流れは、液はトレイ上を横方向に流れダウンカマーから下の段に落ち、蒸気は縦方向のみに流れてトレイの孔から上の段の液に接触します。

理想的な流れとは、この流れのみであることを指します。


これだけでは意味がわからないので理想的ではない流れの代表的なものを説明します。

 

ウィーピング 


トレイでは液の流れている部分に開けられた穴から下段からの蒸気が出て気液接触しています。
当然、穴は蒸気で押されているため、穴から液は落ちないと説明しました。
しかしながら、実際は完全に液を押さえることはできず、上のトレイの液が下のトレイへ多少落ちます。
これにより上のトレイの液が下のトレイの液に混ざり、平衡組成からズレが生じるのです。

ちなみに、蒸気量が少ない、つまり穴を抑える蒸気の力が弱くなると、この現象の程度は大きくなり、かなりの量の液が穴から漏れ出るます。
この場合、蒸留塔の分離能力はかなり低下し、目標濃度まで分離できない状態になります。このような異常をウィーピングと言います。

 

エントレインメント


逆に、穴から蒸気が出て、気液が接触する場合に液が飛び散り、上の段に到達することもあります。
これにより、下のトレイの液が上のトレイの液に混ざり、平衡組成からズレが生じるのです。


蒸気量が多い、つまり蒸気が勢いよく穴から出ると、この現象の程度は大きくなり、かなりの量の液が上の段に飛び散ります。

この場合にも、蒸留塔の分離能力はかなり低下し、目標濃度まで分離できない状態になります。このような異常をエントレインメント(飛沫同伴)と言います。

 

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ウィーピングとエントレインメント(飛沫同伴)

このような理由から、トレイ1段=フラスコ1個とならないのです。

 

理論段と塔効率(段効率)

塔を設計する際は上述のような現象を含め、それなりの精度で、かつ、簡単に計算するための考え方が理論段塔効率(段効率)です。
先に定義を示しますと、次の通りです。
ちなみにこの塔効率を段効率という場合も多いですが、このほかに次のMurhpree(マーフリー)の段効率という定義があります。
私はその区別をするため、前者を塔効率と呼ぶようにしています。

ちなみに、Murhpree(マーフリー)の段効率は教科書に載っているので紹介しましたが、実際には塔効率を使用する場合がほとんどです。
各段の気液組成なんてサンプル採取が難しいですし、設計には塔効率がわかれば十分ですから。

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塔効率とMurphree(マーフリー)の段効率

塔効率について、これだけではわかりにくいと思いますので、具体例を出して説明します。

実際のトレイ段数が10段の蒸留塔があるとします。
そこである薬液の蒸留分離をした際、それがフラスコ5個分、つまり気液平衡5段分の分離性能であった場合、その蒸留塔の理論段は5段塔効率は50%(=理論段5段/実段10段×100 )となります。

ちなみに、冒頭に「一般的には棚段1段はフラスコ0.5~0.7個分くらいに相当する」と言いましたが、これは塔効率の一般的な値は50~70%であることからきています。

 

 

さて、ここで前回まで解説していた階段作図について思い出してください。

www.chemi-eng.com


階段作図はXY線(気液平衡線)と操作線の間に階段を書き、分離に必要な段数を求めていました。
この場合、各段の気・液相の組成は気液平衡組成としていることになります。
つまり階段作図で求められるのは理論段ということです。

すでに運転されている蒸留塔の解析をしたいのであれば、実段がわかっているので階段作図から段効率を求めることができ、異常な運転状態ではないかを判断する一つの指標を得ることができます。

では、新しい塔を設計する場合、つまり、これまで経験のない薬液を蒸留分離できる蒸留塔を建てる場合はどうでしょうか?
実段をどのように設定すればよいのでしょうか?階段作図で必要な理論段はわかるので、段効率をどうするかですね。
焦らすようですみませんが、これについては次回からやる予定の「蒸留 設計編」で解説したいと思います。

 

最後に

今回は理論段と塔効率について解説しました。

化学工学ではこのように理想的な計算と実際の状態とのズレを修正する考え方(モデル)がたくさんあります。
しかも、実際の現象としては複雑なものを簡単な数式である程度の精度で計算できるのが、化学工学の非常におもしろいところです。
このブログでもこれから少しずつ様々なモデルを紹介していきますので、楽しみにして頂ければと思います。