ケミカルエンジニアのTips&Note

化学メーカーで働く中堅エンジニアの技術ブログ。

【蒸留】原理編⑤ 階段作図 マッケイブ・シール(McCabe-Thiele法)

なかなか更新できずにいたら、年が明けてしまいました。
今年は更新頻度を上げることを目標にブログをやっていきたいと思いますので、暖かい目で読んでいただければと思います。どうぞよろしくお願いします。

 

さて、今回は蒸留分離のもっとも基本的な計算方法であるマッケイブ・シール法について解説します。一度学んだことがある人であれば、階段作図といえばピンとくるでしょうか。

正直、階段作図はどの教科書にも載っており、見ればわかる内容なので記事にするかは迷いました。
一方で、私自身、仕事で蒸留検討を行う際、プロセスシミュレータを使用していても頭の中でこの図を思い浮かべて考えていることが多いなぁと思い返し、その重要性からやはり取り上げることにしました。

蒸留の基本的な考え方そのものなので、一度勉強したことのある人も、この記事を読んで本質を理解してもらえるとうれしいです。

 

 

作図に使用する式の導出

下図のような低沸、高沸の2成分を分離する蒸留塔を考えます。
記載の組成は低沸成分のモル分率を表しています。
また、単なる語句の説明ですが、蒸留塔の原料供給(フィード)段より上側を濃縮部、下側を回収部と言います。

ここで、計算を簡便化するために図の右側に記載の4つの仮定をおきます(実際の蒸留塔でははいずれも起こっています)。そうすると、濃縮部、回収部のそれぞれで塔内の液流量、蒸気流量が一定となります。

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階段作図 仮定

濃縮部の操作線

下図は濃縮部のみ拡大した図です。
ynはn段目の蒸気中の低沸成分の組成、xnはn段目の液中の低沸成分の組成を表しています。

緑点線の範囲で全成分、低沸成分のそれぞれの物質収支(マテリアルバランス、俗にマテバラとよく言います)をとります。

物質収支というのはある範囲において“入量=出量”の式を立てるということです。反応などがある場合は範囲内での変化を考えなければいけませんが、今回のケースはそういったものはないので、単純に入ったものと出たものを考えればOKです。

物質収支式をもとに式変形すると(3)式が得られます。
これを濃縮部の操作線の式と言います。
さらに変形し、r=L/Dの式として表すことができます。
ここで、コンデンサーから塔への戻しは還流と呼ばれ、その流量はLです。
つまり、rは還流量/留出量の比をとっているため還流比と言い、重要なパラメータとなります。蒸留分離は還流比をもとに考えることが多いため、濃縮部の操作線も(4)式を使用することが多いです。

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濃縮部の操作線

ここで濃縮部の操作線がどのような式かを考えます。
濃縮部の操作線はyn+1とxnの関係を表す式、つまり上の段の液組成と下の段の蒸気組成の関係式です。

また、その関係は傾きr/(r+1)、切片1/(r+1)の直線であることがわかります。
これだけでも作図の際、直線を引くことはできますが、より線を引きやすくするために、直線が通る特徴的な点を見つけます。
xn=xDのときを考えると、yn+1=xDとなり、(xD,xD)を通ることがわかります。
濃縮部の操作線は(xD,xD)を通る傾きr/(r+1)の直線となります。

 

回収部の操作線

下図に示すように濃縮部と同じように回収部の操作線の式を導出すると(6)式が得られます。式の意味も濃縮部の操作線と同じですね。

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回収部の操作線

ここでxn=xWとすると、ym+1=xWとなり、(xW,xW)を通る直線であることがわかります。
一方で、この直線を決めるにはまだ情報が足りていません。
なぜなら、傾きおよび切片を求めるために必要なL’とV’は原料供給(フィード)条件により決まりまるからです。

 

q線

では、原料供給条件について考えていきましょう。
フィード流量、組成はすでに決まっています。では何が未確定かというとその熱的状態です。
それを表現するのがq値というパラメータで、定義は以下の通りです。
また、原料の熱的状態として、(A)~(E)の5つのパターンがあります。

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原料の熱的状態

ここで、濃縮部と回収部では不連続にならない、つまり原料供給部で濃縮部と回収部の操作線が交わります。
これにより、以下の通り(9)式を導くことができます。
これがq線と呼ばれる原料の状態を表す式で、(zF,zF)を通る傾き-q/(1-q)の直線です。

 

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q線

 

階段作図の方法

これまで求めた濃縮部、回収部の各操作線の式、q線の式により階段作図ができます。具体的な方法は以下の通りです。

  1. グラフに対角線と気液平衡線(xy線図,紫線)を描く
  2. zF、xD、xWを対角線上にプロットする
  3. (xD, xD)より切片 xD/(1+r)に向かって濃縮部の操作線(赤線)を描く
  4. q 値を決定して(zF, zF)より傾き-q/(1-q)で q 線(緑線)を描く
  5. 濃縮線と q 線の交点より点 W に向かって回収部の操作線(青線)を描く
  6. (xD, xD)より(xW, xW)を越えるまで階段作図する

この方法により、下のような図が描くことができます。
下図の場合ですと5段で目標組成になることがわかります。
下図では具体的な数字を与えずに適当に描きましたが、実際は流量F,D,W、組成zF,xD,xW、還流比r、原料の熱的状態が与えられ、何段の蒸留塔で目標組成を達成できるかなどが計算できます。
ほかにも段数が与えられ還流比を求める、など様々な応用が可能です。

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階段作図


ここで階段作図の本質、作図により何をしているかを考えてみましょう。

勘の良い方はわかるかと思いますが、気液平衡は同じ段の気液組成関係を、操作線は上下段の気液組成関係を表しています。
つまり、階段作図はそれらを交互に結ぶことで、組成を順番にたどっているのです。これにより塔内の各段の組成を求めることができています。 

 

終わりに

今回は階段作図の方法について解説しました。
最近は、プロセスシミュレータを使用して蒸留検討をすることが多いので、作図する機会は少ないかもしれません。
しかしながら、プロセスシミュレータはブラックボックスになりがちで、得られた結果は妥当か、なぜそのような結果になるかを考える際には、階段作図は非常に役に立ちますので、そういった形で使用できるように本質的に理解しておきましょう。
次回も階段作図からわかることをもう少し詳しく解説する予定ですので、そちらも併せて読んでいただけると理解が深まると思います。