今回は蒸留設計編の続きをやっていきたいと思います。
前回、蒸留プラントの設計手順について次の通り、説明しました。
今回から各項目について解説していきたいと思います。
今回は (1) 前提条件の決定 について、解説します。
【プロセス設計】
(1) 前提条件の決定 [処理量、フィード・製品組成]
(2) バッチ/連続の決定
(3) 運転圧、温度の決定
(4) 運転還流比、理論段の決定
(5) PFD作成[マテリアル・ヒートバランス作成、制御系設計]
【設備設計】
(6) 棚段塔/充填塔の決定
(7) 塔高さ、インターナルの設計
(8) 塔径の設計
(9) 塔以外の付帯設備の設計[リボイラー、コンデンサー、槽、ポンプなど]
(10) P&ID、プロット図、機器リスト 作成
前提条件の決定
蒸留プラントの設計をする場合、前提となる条件をまず決めなければなりません。
前提とは原料液(フィード)と精製後の液(製品)の処理量と組成です。これらの前提から、必要となる分離能力、処理能力が決まります。
蒸留は、化学物質を作り出す工程(反応器など)から出てきた混合物から不純物を取り除き純度の高くする、もしくは、原料から不純物を取り除き反応器などへ送り使用する(溶媒や原料のリサイクルも含む)ためにやることが多いです。
そのため、処理量は蒸留塔前後の工程の処理量(能力)とバランスするように決めることが多いです。これは比較的単純です。
フィード組成は反応などの前工程でどういった混合物が出てくるか、購入してきた原料を精製するのであれば、原料メーカーとの取り決め(仕様書、契約書など)で決まります。
一方、製品組成(スペック)はユーザーの都合により決まります。
ユーザーが具体的に誰かはケースバイケースです。
例えば、社内消費するのであれば自部署の次工程や他部署の工程がユーザーです。
次工程の運転への影響(反応成績や品質)やトータルコストを加味して決めることになります。
社外顧客へ販売するのであれば、顧客がユーザーとなります。
したがって、製品スペックは顧客との取り決めで決まります。
その背景には社内消費と同じく、顧客での製品品質や生産工程への影響がありますので、可能であればこれらについて議論して、取り決める必要があります。
この際、しっかり考えないといけないのは、必要以上の製品スペックとしていないかということです。
ユーザーが安全を見たいがために、過剰品質を要求される場合がありますが、その場合、設備投資費や運転コストに大きく影響することになります。
しかしながら、特に運転開始後は一度決めたスペックを緩める方向に変更するのはユーザーに嫌がられる場合が多く、かなり難しいです。
したがって、最初にしっかりと関係者で議論して製品スペックを決める必要があります。
場合によっては、ユーザーの工程で不純物がどの程度影響するかを確認するテストを行う必要が出てきて、それなりに時間を要することもあります。
しかしながら、ここを疎かにすると、余分なコストのかかる設備になってしまいます。
また、設計の途中で前提が変わり、設計をゼロからやり直さなければならない事態にもなりかねません。急がば回れです。
焦ることなく、じっくりと考え、関係各所と議論し、根拠をもって決める必要があります。
終わりに
製品スペックについては私自身、設計を進めていた蒸留塔の前提においていた製品スペックが過剰品質であることが途中でわかり、前提を変更し設計をゼロからやり直したという嫌な経験があります。
このようにならないよう、最初にしっかりと前提を決めておくことが重要です。
これは蒸留塔に限らずプラント設計すべてに言えることですね。