ケミカルエンジニアのTips&Note

化学メーカーで働く中堅エンジニアの技術ブログ。

【蒸留】原理編④ 運転圧の決定方法


今回は蒸留塔の運転圧の決定方法について解説したいと思います。

 

運転圧は冷却水・スチーム温度で決めるのが基本

 

前回の記事で蒸留塔内の温度は圧力と組成で決まると解説しました。忘れている方やまだ見られていない方は下記リンクを読んでみてください。
chemi-eng.hatenablog.com

今回取り上げているのはこのうちの圧力についてですが、圧力が高くなった場合、沸点が上がるため塔内温度も上がります。一方、圧力が低くなった場合はこの逆ですね。

以下記事でも解説しましたが、蒸留塔はリボイラーで加熱し蒸気を焚き上げ、焚き上げた蒸気をコンデンサーで冷却し凝縮させ、ある割合で還流、留出させます。
chemi-eng.hatenablog.com
リボイラーの熱源としてはスチームを使用することが多いですが、蒸留塔のボトム温度はスチーム温度より低くなければ加熱できません。
工場毎に使用できるスチーム圧、つまり温度は決まっています。スチーム圧を上げれば良いのではと思うかもしれませんが、それは非常に難しいです。スチームをつくっている部署(動力など)でのボイラーやスチーム配管の新設や更新とかなりのコストがかかるというのが大きな理由です。また、スチーム圧を変更した場合、工場内の他の工程への影響の懸念もあります。
そのため、蒸留塔ボトム温度がスチーム温度より低くなるように蒸留塔の運転圧を決定します。例えば0.1MPaG、つまり121℃のスチームを使用した場合、ボトム温度は100℃程度になるように圧力にします。スチームとの温度差があまりにもないと、リボイラーサイズが大きくなるため、ボトム温度は最大で ”スチーム温度-10℃” 程度です。

また、コンデンサーでの冷却にも同様の制約があります。
コンデンサーの冷媒には冷却水を用いることが多いです。
冷却水はどのように使用しているかというと、一般的には各工程で冷却に使用された温度の高い水を冷却塔と呼ばれる装置で水の蒸発熱(潜熱)を利用して冷却して、循環使用しています。冷却塔出の温度は、最も高くなる夏場で30℃程度です。
つまり、蒸留塔のトップ温度が30℃(冷却水温度)以下だと凝縮できないので、それより高くなるように圧力を決定します。こちらも温度差はある程度必要なため、トップ温度は最低で”冷却水温度+10℃”程度です。

一般的にはこのようにユーティリティの温度で運転圧を決めることが多いです。ただし、例外もあるので次に紹介しておきます。

 

 

例外として、分離しやすさで決めることもある

 

例外として紹介しておきたいのが、圧力によって気液平衡組成、つまり分離のしやすさが大きく変わる物質の組み合わせの場合です。
例えば、圧が低いほど分離しやすくなる系があります。x-y線図としては以下のように圧が低くなるにつれて、対角線から離れて膨らんでいくような系です。

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圧力により気液平衡組成の変化


こういった場合は、通常の冷却水では凝縮できないほど圧を低くし、低温の冷媒を使用した方がトータルメリットが出る可能性があるため、ケーススタディを行い運転圧を決定します。
その際は設備投資費、運転費(収率、スチーム費、冷媒費など)を含む総合的な比較が必要です。


他には、共沸する系で圧力によって共沸点が変わる場合もあります。さらに、かなり特殊なケースでは圧により共沸がなくなる系もあります。
共沸については、また別の記事で取り上げたいと思いますので、そちらで詳細を書きたいと思います。

 

 

終わりに

今回は蒸留塔の運転圧について取り上げました。このように、プラントの条件決定は単純ではないことがほとんどです。プロセスエンジニアはさまざまな因子の影響度を総合的に考えて、どの条件が適切かということを決めなければなりません。
これがこの仕事の難しいところであり、おもしろいところだと思います。