今回はこれまで説明してきたことをもとに、蒸留塔の構造についてその原理から説明したいと思います。
フラスコから蒸留塔を考える
大学などで化学を学んだ方は下図のような器具を用いて単蒸留(蒸発、凝縮を1回だけやる蒸留のこと)の実験をやった経験があるのではないでしょうか。
前回の復習になりますが、メタノール50 mol%水溶液を原料に使用した場合、初留(初めに出てくる蒸気)のメタノール濃度はどうなるでしょうか。xy線図からメタノール79mol%となることがわかります。
さらに、下図のように単蒸留を3回繰り返すとどうなるでしょうか。それぞれの濃度が図のプロットになり、3回目の蒸気の凝縮液のメタノール濃度は約96mol%まで上がります。このような多段蒸留を精留と言い、蒸留塔の原理そのものです。ちなみに、プラントでは慣例で蒸留というと精留を指すことが多いです。
しかしながら、この場合は加熱・凝縮を3回もやらなければならず非効率です。そこで、途中の加熱・凝縮を省略し、さらに省スペース化のため縦に並べます。
このとき、一番上で凝縮した液の一部を下のフラスコに戻し、さらにその下のフラスコにも液を戻します。これを還流と呼びます。還流がないと、液がなくなってしまうため上二つのフラスコで気液接触が起きなくなり、3段で蒸留している意味がなくなってしまいます。ですので、精留をする場合は還流が必ず必要です。
しかしながら、このフラスコが繋がった形では不安定、かつ、機器が複雑になります(費用が高くなる)。そこで編み出されたのが次の蒸留塔です。
蒸留塔設備の構成
蒸留塔設備は主には蒸留塔、リボイラー、コンデンサー、留出タンク、ポンプから構成されています。
それではそれぞれどのようなものか見ていきましょう。
画像引用元;http://www3.scej.org/education/nrf.html
蒸留塔
蒸留塔はトレイと呼ばれる板の段がたくさん連なったものが中に入っています。トレイの構造は様々な種類がありますが、安価で最もよく導入されるのは図のような小さな孔が沢山開いているシーブトレイと言うタイプです。
液はトレイの上を横に流れ、堰を超えて下の段に落ちます。蒸気は下から上に流れます。そして、蒸気は上段のトレイの孔から出て、上段の液に接触します。通常、液は孔は蒸気で押されているため孔からは落ちず堰を越えてダウンカマーと呼ばれる部分に落ちます(実際は少量は落ちますが)。それぞれの段がこの流れになっていて各段で気液接触して沸騰しています。
つまり、前述のフラスコと同じことをしている、各段がフラスコ1つに相当するというのが理解できるかと思います。
このような蒸留塔を棚段塔と言います。蒸留塔には充填塔という別のタイプの塔もありますが、それは別の記事で説明したいと思います。
リボイラー
処理液に熱をかけて、蒸発させる装置です。
フラスコの図でいうところのバーナーの代わりになるものです。
一般的には多管式熱交換器が用いられます。
コンデンサー
塔頂まで上がってきた蒸気を凝縮して液にする装置です。
こちらはフラスコの図でいうところのリービッヒ冷却器です。
こちらも一般的には多管式熱交換器が用いられます。
留出タンク、ポンプ
コンデンサーで凝縮した液を留出タンクへ貯め、その液をポンプで還流と次の工程への送液を行います。
終わりに
今回は蒸留塔の構造について説明しました。なぜその構造になっているか、すごく効率的な設備であることが理解できたと思います。これは化学プラントの他の設備も同様で、機器製作や運転をいかに効率的にできるかがよく考えられています。
そういったことを発見すること、さらに言えば自ら考えて改善することがプラントエンジニアの面白さのひとつだと私は思っています。