ケミカルエンジニアのTips&Note

化学メーカーで働く中堅エンジニアの技術ブログ。

【蒸留】原理編① 気液平衡

仕事が忙しくなかかな記事を書けませんでしたが、やっと少し余裕ができてきました。これからは最低1記事/週はアップしていきたいと思います。でないと、なかなか蒸留塔の話までたどりつかないですね。。苦笑

ということで、今回は蒸留の原理の気液平衡の話をします。前々回の記事で、蒸留は蒸気圧差により混合物を分離・精製するといいましたが、もう少し具体的にどういうことか、説明していきたいと思いますので、そのために必要な図の読み取り方を勉強していきましょう。

 

 

気液平衡

 

例えば、水(標準沸点100℃)メタノール(標準沸点65℃)を混合してメタノール50mol%の液をつくります。これを容器に入れて蓋をし、一定温度で放置します。一定時間経つと蒸発と凝縮が同じ速度になり、液相と気相のメタノール濃度の変化しなくなります。これが気液平衡状態と言います。この時、メタノールの蒸気圧は水より大きいので気相のメタノール濃度は50mol%より高くなります。この現象を利用して物質を分離するのが蒸留です。
蒸留を考える上でベースになるのは気液平衡での気液の組成と温度です。次はそれらの取り扱いによく使用するx-y線図、T-xy線図の使用方法を説明します。

x-y線図

下の図はメタノール/水の101.3kPaのx-y線図です。
横軸のxはメタノールの液相のモル分率、縦軸のyはメタノールの気相のモル分率を表しています。
気液平衡組成を表す図のルールとして、低沸(=蒸気圧の高い)のものの組成をとることになっています。
したがって、下図はメタノールの組成になっています。
この図の見方は単純で、例えばx=0.5のときy=0.79ですので、メタノール50mol%液の気液平衡状態の気相組成はメタノール79mol%になることを示しています。
この図があれば、液相・気相組成のいずれか片方がわかれば、もう片方がわかることになります。

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メタノール-水 xy線図

T-xy線図

気液平衡にはもう一つ重要な図としてT-xy線図があります。
T-xy線図は圧力一定で温度を変化させた場合のx,yの関係を表しています。
これとは逆に温度一定で圧力を変化させた場合のx,yの関係を表すP-xy線図もありますが、蒸留塔は基本的には圧力が一定です(厳密には圧力損失がありますが)ので、蒸留塔を考える上ではT-xy線図の方がより重要ということになります。
P-xy線図はまた別の機会にでも説明したいと思います。

より具体的に見ていきましょう。下の図はメタノール/水の101.3kPaのT-x,y線図です。
横軸はメタノールの液相モル分率xもしくは気相モル分率yを、縦軸は温度Tです。
下の赤線は沸点曲線と言い、ある圧力でのx-Tの関係を、上の青線は露点曲線と言いある圧力でのy-Tの関係を表しています。
たとえば、メタノール50mol%液は沸点73℃であり、平衡状態の気相メタノールは79mol%になることを示しています。

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メタノール-水 T-xy線図


さらに混合物の状態も知ることがてきます。
メタノール50mol%液を温めていく、図で言うと垂直に上げていくと沸点曲線と73℃でぶつかります。ここで沸騰が始まる、つまり73℃が沸点になります。言い換えると73℃以下は沸騰していない液相のみの状態ということになります。
さらに温度を上げると、沸点曲線と露点曲線の間の領域に入ります。この領域は沸騰はしているけど液がある、つまり気液混相の状態です。この時の気液のメタノール物質量

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メタノール-水 T-xy線図2

比(モル比)は”てこの原理”により算出でき、例えば80℃のときメタノールの気液モル比は液:気=1:2となることがわかります。このように、この領域は"てこの原理"によって組成が動きながら温度が変わっていくことなります。
さらに温度を上げると85℃で露点曲線にぶつかります。ここで、液が完全にいなくなり気のみの状態になります。
このようにT-xy線図はxy線図に加えて、温度と状態の情報も表しているものです。

終わりに

今回は、気液平衡を表す図の読み取り方を説明しました。蒸留計算の大元はこの図から行いますので、しっかりと理解しておきましょう。
次回はこれらの図をもとに蒸留の分離原理を解説したいと思います。